人間行動分析には視覚系運動に注目すべし!
ヒトは、外界の情報の大部分を視覚系から得ています。膨大な情報を効率良く受容するために、視覚系にはさまざまな巧妙な仕組みがあります。前述しました、眼球には視線運動、瞳孔運動、さらにまばたきの眼球運動制御機能がそれにあたります。これらは外界から必要な情報を、ヒトの網膜の中心において効果的に受容できるように制御され、視覚系の働きを補助しています。
すなわち、外界の情報を受容しやすい場合とそうでない場合では、これらの働きに明らかに違いが生じるはずです。また、外界から情報を受容することによって生じる精神活動によってもこれらに対応する運動制御系の反応があるはずです。
以下に、これらの代表的な例を説明します。
視線運動によるヒトの行動の客観的評価
見つけやすい対象には視線の移動に無駄は生じず、短時間の直線的な動きによって対象を網膜中心に捉えるように動きます。一方、見つけにくい対象には視線はさまようような動き(キョロキョロしている状態)になるので、視線の移動軌跡が複雑になり対象発見までの時間が長くなります。
よって、視線運動の反応時間、移動速度、移動距離、跳躍性眼球運動(視線方向が瞬間的に大きく変わる運動)の発生回数などの指標が、視野内のものの見やすさを示す尺度として利用可能となります。
このような単純な事例だけでなく、実用的な場面においても多くの具体例があります。自動車運転教習では運転時のドライバーの目の動きを示すことで、説得力の高い交通安全指導を行っています。また店舗での商品陳列時には、消費者の視線の動きが大変参考になるといわれています。消費者の購買行動時に計測した視線運動から得られる指標によって数量化されたデータに基づいて、見やすさの状況を客観的に説明できます。また、比較も容易に行えます。
瞳孔運動による精神活動の客観的評価
一般動物の瞳孔は網膜に入射する光量の調節の機能を有することはよく知られています。ヒトの場合は、瞳孔の器官としての可動域の制約から、瞳孔変化によって調節できる光量はたかだか全体の1/16程度です。一方で、人間の視覚系で受容可能な光量の範囲は10^12に及び、これらの大部分を調節しているのは視覚神経系の働きによっています。つまり、ヒトの瞳孔は光量の調節にはほとんど役立っていません。
しかし、数十年にわたる認知心理学系の実験から、瞳孔の大きさは精神活動を直接反映する指標になり得ることが知られています。例えば,興味を示す対象物に対しては、ヒトの瞳孔は大きく開き,関心がない対象物に対しては瞳孔が小さくなります。対象は視覚的な情報に限られたものではなく,聴覚的な刺激であっても瞳孔は同様に反応します。
したがって,瞳孔径の変動を計測しその数値化データにもとづいて指標とすることで、興味・関心の度合いを客観的に表すことが可能です。
まばたきを用いた客観的評価
まばたきの発生回数や発生間隔も客観的評価指標になりうることが知られています。まばたきは、精神的な緊張の度合いや視対象に対する関心の度合いと相関が高いとさています。緊張しているときまばたきの頻度は高くなり,一方関心が高い対象に対するときまばたきの頻度は低くなります。
本来は主観的評価である緊張状態や関心の度合いなどを、まばたきの回数を計測することによって客観的に評価することが可能になります。
眼球運動をとらえてヒトの潜在意識にせまる
視線運動はこんな風に解析できるんです。