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ヒトの行動を記述するとは?

環境に対する情報処理と生体反応のモデル

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ヒトの情報処理と生体反応のモデル

われわれが環境からなんらかの情報を得て精神活動あるいは行動を起こすプロセスは、概ね図(上記)のようなモデルで表せます。

通常時には、感覚器(眼、耳、皮膚、鼻、舌など)への刺激によってヒトが外界の情報を得ると、各感覚器ではその刺激(物理的刺激あるいは化学的刺激)が神経系を伝わる電気信号に変換されます。そして、その電気信号は求心性(末梢(体の各部)から中枢(脳)に伝わる方向)の神経系を経て大脳中枢の入力側に到達します。大脳中枢では学習によって過去に蓄積された記憶と照合することで、今入力された情報を《認識》したり、これによって《推論》したり、あるいは何らかの情動反応が表出したりするなど、さまざま高度の情報処理を行っています。これらは、精神活動と呼びます。

大脳中枢の出力側では、情報処理の結果に基づいて、行動の手順を信号によるプログラムに組み立て、その信号を遠心性(中枢から末梢に伝わる方向)の神経系を通じて運動器に送ります。運動器とは行動のもとになるものの総称で、ヒトの各器官の筋肉が主要な動きをつかさどります。つまり、運動器が指示の信号を受けると筋肉が動作し、ヒトの行動につながります。たとえば、眼球が動いて次の情報を得るようにしたり、顔面の筋肉が動いて表情が変わったります。

ヒトの行動を記述するための古典的なアプローチ

このような精神活動や行動を起こすプロセスは、神経系での信号伝達に基づくことは言うまでもありません。しかし、神経の活動をどんなに詳細に記録して分析してみても、現在の神経生理学の知見から精神活動あるいは行動を説明するのは、非常に困難であると言われています(仮に部分的に可能であっても、それを得るのに非常に大がかりな仕掛けが必要です)。

そのため心理学では、アンケートや面談によって内観(自分自身の心の動き・状態を自分で観察する)を引き出した報告をもとにして、さまざまな手法を工夫して精神活動を記述し分析するのが、一般的です。

ヒトの精神活動を生体反応からとらえる

われわれが外界から情報を得てから行動にいたるまでのプロセスでは、神経系の活動によってさまざまな生体反応(生命体の外部から観測可能な反応)が生じます。これらの生体反応は生体信号を変換した電気信号として、あるいは可視化された画像として、ヒトの体の外部に取り出すことが容易なものがあります。

例えば、内臓の動きは精神活動と深くかかわっているものが多く、それに影響されて観測できる生体反応があります。すでに、医療の現場でよく使われる通り、血圧や心電図、呼吸などは神経の集中や負担を表します。

一方で、ヒトの対面コミュニケーションで無意識のうちに重きをおく目に注目してみますと、その運動器としての振る舞いには以下のようなものがあります。

(1)  視線の方向を定める眼球運動

(2)  遠近方向の像にピントを合わせる焦点調節運動

(3)  眼球内に取り込む光の量を調節する瞳孔運動

(4)  さまざまな目的があると考えられているまばたき

これらは運動器本来の機能のほかにも、精神活動を反映する側面があると、従来より考えられています。

さらに、大脳の活動は、脳波や誘発電位として取り出すことができます。脳波のα波やβ波のように脳波を周波数成分によって区分し、脳におけるそれらの成分の分布状況がわかる《脳地図》が開発されています。最近では、光トポグラフィの技術によって大脳の表面付近の血液量の変化を計測し、それを2次元的なマップに表わすことによって、脳の各部の活性構造や脳内の活動部位がわかるようになってきています。

生体信号の数値化は客観的指標として有用である

このように各種生体信号は、ヒトの精神活動や行動を体外から観測するのに利用できる有用な指標となりえます。生体信号は数値データとして外部から計測できることが最大の特徴で、客観的なデータとみなすことができます。一方で、内観の報告は主観的であるので、精神活動を記述する方法としてはおのずと限界があります。以上から、生体反応を数値化してヒトの行動を記述することの意義が理解できたと思います。

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